医療創生大学

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OODAメソッド起源は疫学にあり ~疫学の父 ジョン・スノーによる活動~

看護学部 看護学科  後藤恭一 教授 WEB
 

近年、教育やビジネスの場面で注目されているフレームワークに「OODA(ウーダ)」があります。OODAはPDCAと同じく、意思決定と実行の一連の流れを4つのプロセスで表現したものなのですが、その特性はPDCAと異なります。OODAはスピード感あふれるプロセスから「状況の変化に対して、柔軟に対応できる」状況判断と意思決定のためのメソッドです。

OODAは戦闘機による戦闘の勝率を高めたアメリカ空軍の手法であり、考え方を提唱したのはジョン・ボイド大佐といわれています。しかし、このフレームワークに従い、ジョン・スノー(Dr. John Snow (1813-1858), British physician.)はコレラからロンドンの市民を守ったのです。

コレラの古典型(アジア型)の世界的大流行は1817年に始まりました。その後、1826年~1837年にアジア・アフリカを経てヨーロッパや南北アメリカにも広がり、世界的規模となりました。この大流行の背景には、産業革命によって蒸気機関車、蒸気船など交通手段が格段に進歩し、また、インドの植民地化をはじめ世界諸地域が経済的、政治的にたがいに深く結びつけられたことがあります。2002年のSARS(重症急性呼吸器症候群)の大流行の背景も飛行機という交通手段が背景の一因とされています。1954年には、イギリス・ロンドンのブロード・ストリートでコレラの大発生が起きました。

当時、コレラなどの病気は「悪い空気」によって引き起こされるという瘴気(しょうき)説が考えられていましたが、スノウはそれに懐疑的でした。彼は調査を始めました。現場に向かい、死亡者を観察(Observe)し、状況判断(Orient)したところ、ほとんどすべての死亡がポンプから近いところで起きていたことに気がつきました。ロンドンの他の地域ではコレラの発生や流行はありませんでした。そこで、ポンプのハンドルは翌日取り外すことを意思決定(Decide)し、実行(Act)しました。その後、コレラの発生は収まったそうです。この彼の行動は、疫学の始まりといわれています。

Observe(観察):「生のデータ」を収集→Orient(状況判断)集めた情報を分析して、どういった状況が起きているのかを理解し、行動の方向性を考える→Decide(意思決定=きめる)どういった行動を取るかを具体的に決める→Act(実行=動く)実際に行動し、次回ループのObserveを考える。まさに、彼の取った行動はOODAループなのです。OODAループの期限は疫学と言っても良さそうです。彼の疫学的手法は現代にも活きています。

2022.08.31