医療創生大学

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令和3年度東北地方発明表彰・日本弁理士会会長賞を受賞 堀 一之先生インタビュー

薬学部 薬学科 堀 一之 教授 × 石川 暁志 講師 WEB
 

 今回は「タンポポ由来のメラノーマ細胞分化誘導物質」で令和3年度東北地方発明表彰にて日本弁理士会会長賞を受賞された本学薬学部の堀 一之先生にお話を伺いたいと思います。学生さんにも分かりやすく解説をしていきたいと思います。司会は同じく薬学部の石川 暁志が行います。

 

石川「堀先生、今回の受賞誠におめでとうございます。メラノーマ(悪性黒色腫)の増殖抑制を行う物質の一つを発見されたとのことで、内容を簡単に説明していただきたいと思います。」

 

堀「よろしくお願いいたします。」

 

石川「まずは今回の表彰がどのようなものか教えて下さい。」

 

堀「公益社団法人発明協会により、東北6県で権利化された特許又は実用新案のうち、科学技術の発展と産業の振興に寄与すると評価され、実用されているものを対象に表彰するものです。」

 

石川「既に実用化されているものなのですね。」

 

堀「現在、動物病院において、主にイヌメラノーマの治療に使われています。この病気は老犬となる10歳位になると発病し、その多くが頭部(歯、のど)に発生し、食事や呼吸が困難となり、飼い主さんも見ていてとても辛く、多くは寿命を前に死に至ります。それに対し、ルペオールを投与するとメラノーマが縮小し、犬のQOL(quality of life)を大きく改善することが認められています。」

 

石川「そうですか、犬と飼い主さん双方にとって役立っているのですね。では、今回発見されたルペオールがどのような経緯で発見されたのか教えて下さい。」

 

堀「当時は、秋田県総合食品研究所の主任研究員として、秋田県で入手できる食材を中心とした植物素材から、何らかの活性がある物質を探そうと始めたのが研究の発端です。その中で300~400種類の植物エキスについて、培養ヒトメラノーマ細胞(悪性黒色腫細胞)に作用させ調べたところ、生育阻害を示したのが「タンポポ」の根のアルコールエキスでした。そこで活性本体を追求し、ルペオールと言う物質にたどり着きました。」

 

石川「ルペオールと言う物質はもともと一般的に知られていた化合物でしょうか。」

 

堀「当時、キク科タンポポ属の根に含まれることは知られていましたが、どのような活性があるかについてはあまり知られていませんでした。」

 

石川「この研究を進めていく上で、どのようなハードルがありましたか。」

 

堀「ルペオールの活性はヒトの細胞で見つけたので、当初ヒトに対するいわゆるシミ、そばかすに対する美白作用を視野に医薬品あるいは化粧品の開発を目指しました。しかし、毒性が強すぎて実用化は諦めるしかありませんでした。そこで、ルペオールの構造を変化させて(いわゆる構造活性相関といいます)あれこれ検討してみたのですが、ルペオールを上回る活性物質を見いだすことは出来ませんでした。」

 

石川「せっかく見つけたのに残念ですね。」

 

堀「これまでかと思ったのですが、当時参加していた日本キチン・キトサン学会の懇親会で知り合った鳥取大学農学部獣医学科の岡本先生にお話したところ、イヌメラノーマは先に述べたように深刻な病気であって、可能性があるなら犬で試してみようと仰っていただきました。」

 

石川「薬学部の出身者では、なかなか犬の治療という発想には至りませんね。」

 

堀「さらに、秋田県に進出した化粧品開発ベンチャー(株)坂本バイオさんが、根気強く実用化の為尽力していただきました。」

 

石川「色々な方の協力があって完成したのですね。」

 

堀「結局、実用化に至るまで研究が始まってから10年以上の歳月がかかりました。私たちは、この研究の端緒を見いだしたに過ぎません。ここで強調したいのは、今日まで継続して治験に興味を持ち、治療にご使用いただいている日本各地の獣医の先生方によるご協力の賜物であり、本当に様々な方々との出会いとご尽力によって、私たちが受賞させていただいた訳であり、関わった皆様に深く感謝します。」

 

石川「人の出会いや協力によって完結することができた研究とのことですが、まるで映画みたいですね。感動的です。今後もルペオールによって多くの犬、そして飼い主さんが救われることを期待いたします。先生、本日は貴重なお話をありがとうございました。」

 

ご注意:ルペオールは、当然ながら全てのイヌメラノーマに対し、効果を示すわけではなく効かない例もあります。かかりつけの獣医さんと良くご相談の上、ご使用の検討をされるようお願い致します。


<プロフィール> 堀 一之 教授/博士(薬学)
東京理科大学薬学部卒業、大阪大学薬学部薬学研究科修了、神戸学院大学薬学部助手、大阪大学薬学部文部教官助手、秋田県総合食品研究所(現、秋田県総合食品研究センター)主任研究員、上席研究員などを経て、医療創生大学薬学部教授。
専攻研究分野:生薬・天然物化学、薬用・機能性食品学、機器分析学、食品分析学、知財管理。

2022.01.13