医療創生大学いわきキャンパス

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ウイルスとワクチンについて
2020.08.17 09:00
菊池 雄士教授 ×金 容必教授

――― 新型コロナウイルスの影響で、本学でも授業の開始時期を遅らせることや遠隔授業を実施やするなど、さまざまな対応をしてきました。6月18日に首都圏の1都3県及び北海道への往来の自粛解除や、イベント等の開催規模の要件緩和がなされ、新しい生活様式を踏まえ、日常の生活が戻りつつある状況です。本学においても、7月1日より、段階的に対面授業を開始しているところですが、改めて、新型コロナウイルスについて、薬学部の菊池雄士教授と金容必教授にお話を伺いたいと思います。
 

司会:今回のコロナウイルスの基本的な情報について教えてください。
 

:コロナウイルスは、数種類あります。まず、サーズ(SARS)コロナウイルスについて簡単に説明します。SARSとは病名(重症急性呼吸器症候群(Severe acute respiratory syndrome,SARS))のことです。これは2~7日間の潜伏期間があり、急激な発熱、せきなどインフルエンザ用の症状を経て、呼吸困難・低酸素血症が現れる病気です。致死率は10~20%前後と言われています。2002年11月中国南部広東省を起源として流行が始まったのち、香港、ベトナム、台湾などに感染者が広まり、死者も多数でました。次に、新しいウイルスとしてマーズ(MERS)コロナウイルスもあります(2012年に発見)。病名は中東呼吸器症候群(Middle east respiratory syndrome,MERS)です。この病気は2~14日間の潜伏期間があり、肺炎、発熱、せき、息切れなどを起こします。下痢などの症状を伴う場合もあります。致死率が30~50%と言われており、非常に高い数値です。この点がSARSと決定的に異なります。
 

司会:なるほど。SARSやMERSなど名前は聞いたことがありますが、あまり病名やウイルス名などあまり意識したことはありませんでした。違いもよく分かっていませんでした。
 

:幸い、日本では流行しませんでしたからね。
 

司会:ちなみに、新型コロナウイルスについて、「COVID-19」などと表現されることもありますが、これはウイルス名なのでしょうか。
 

:現在、新型コロナウイルスと呼んでいるウイルスの正式名称は、「SARSコロナウイルス-2」です。新型コロナウイルス感染症の正式な病名は「COVID-19(coronavirus disease 2019」です。基本的な感染様式は、飛沫感染と接触感染がメインだと言われています。そのため予防にはマスク、手洗いが非常に重要になります。
 

司会:「SARSコロナウイルス-2」がウイルスの正式名称なのですね。それで病名が「COVID-19」ですか。まさか、「-19」が2019年の「19」だとは思いませんでした。
 

菊池:現在、新型コロナウイルスについては患者さんから単離したウイルスの解析が進められていて、身体に侵入したウイルスが細胞のどのような分子に接着して細胞の中に入り込むかなどがわかってきています。また、ウイルスには変異を起こしやすいタイプのウイルスと起こしにくいタイプのウイルスがあります。よく知られているウイルスでは、「水ぼうそう(水痘)」や「はしか」は起こしにくいタイプで、毎年流行するインフルエンザは起こしやすいタイプになります。新型コロナウイルスは既に数百の変異が確認されていますので、変異を起こしやすいタイプのウイルスだと考えられます。
 

:今回のコロナウイルスは、重い疾患を引き起こしているため注目されておりますが、「コロナウイルス」は昔からあった身近なウイルスの1つです。コロナウイルスによる風邪も昔からありました。
 

司会:そうなんですね。「コロナウイルス」という言葉は、今回の新型コロナまで聞いたことがありませんでした。今回の新型コロナウイルスがなければ、知らなかったことが多いですね。「PCR検査」なども聞いたことがありませんでした。
 

菊池:今回の新型コロナウイルスの感染を調べる方法として、「PCR検査」、「抗体検査」という言葉がテレビなどで取り上げられていますよね。検査の精度は「PCR検査」の方が精度も高いです。ただ、「抗体検査」は簡便で特殊な装置もいらないので、広く使われています。既に世界で複数種類の「抗体検査」キットが製品化されていますが、良し悪しを判断するには、まだ十分にデータが揃っていないように思います。
 

菊池:「PCR検査」は、新型コロナウイルスに限った特別な検査法ではなく、薬剤師国家試験の問題にも出るくらいの一般的な検査法です。本学の薬学部でも2年生の実習の課題にありますので、学生も原理を理解しています。
 

:「PCR検査」は、体内にウイルスがあるかどうかを調べる検査法です。ウイルスの遺伝子が体内に存在しているかどうかということです。新型コロナウイルスはRNAウイルスなのでRNA核酸を調べます。体内にウイルスがある人の場合、当人の粘膜から検体をとって、検査をすればわかります。「抗体検査」は、簡単な検査方法で10~15分で実施するころができるのですが、新型コロナだけを検出できるかというと、感度が悪い検査方法になります。「PCR検査」で陽性だった人(体にウイルスがあるとわかった人)が抗体検査を行っても、十数%しか検出できないようです。
 

菊池:金先生が言われたように、新型コロナウイルスは感染しても抗体ができる人が比較的少ないかもしれないと言われています。一般的に、ウイルスが入ってきた時にそれを排除する「免疫」は2段構えになっています。
体にウイルスが入ってきたときに、最初に働くのは「自然免疫」と呼ばれていて、ほとんどの場合は病気の症状が出る前にこれで防げることが多いです。インフルエンザ等も毎年流行していますが、全員が発症するわけではないですよね。少ない量のウイルスであれば、体の中で増えて病気になる前に排除しています。新型コロナでPCR検査が陽性だったけど、発症しないという方は「自然免疫」がうまく働いているのだと考えられます。
2段回目が「獲得免疫」です。「獲得免疫」は、体内に入ってくるウイルスの量が多く「自然免疫」で処理できなかった場合に働く免疫で、強い排除能力を持っています。これはいわゆるリンパ球、皆さんがよく知っている言葉でいうと、「抗体が働く」ということです。先ほど話をした「抗体検査」は、この抗体を調べることで、感染の有無を確認するわけです。新型コロナウイルスに関していうと、特効薬がない状況ですけど、例えば30日間入院していたら治った場合などは、30日の間に徐々に「獲得免疫」が働いてウイルスを排除したということになります。「獲得免疫」は、一度戦った相手を覚えています。幼いころに「水ぼうそう」を発症しても、2回目には発症しないですよね。これは、2回目に同じウイルスが入ってきた場合、すぐにリンパ球が動いて病気が発症する前にウイルスを排除してくれるからです。これを「免疫記憶」と言いますが、この記憶を人為的につくるのがワクチンです。
 

司会:なるほど。勉強になりました。今回の新型コロナウイルスに関して、「薬」はいつできるのか気になるところですが…。
 

:平均的に、薬が生まれて、一般人の手元にとどくには9~17年と言われています。だんだんスピードは早くなってきていると言われていますのであくまで平均的な話です。薬ができて人々に投薬されるためには、人に対する臨床試験(人に対する安全性や薬効を確かめる試験)をきちんとしないといけません。
現在は、本来の用途ではないが、新型コロナウイルスに効果的かもしれないという別の薬を承認しようとする状況です。このような開発過程を「育薬」ともいいます。臨床試験が済んでいて、副作用等を含めリスクがわかっている薬を使っています。そのため、承認が早くできると言われています。実際に重症患者が対象で、「レムデシビル」という薬が承認されました。これは、本来はエボラウイルスによる出血熱の治療を目的とする薬でした。また、現在、開発しようとしている日本発のアビガン(商品名)、一般名はファビピラビルという薬があります。これは、インフルエンザ感染症に対する治療薬でした。すぐに使用しなければならない状況だから、今、国から承認されている薬の用途を変更して、新型コロナに使えないかということです。副作用、危険性もわかっている状況です。
例えば、アビガンは、動物実験で催奇形性(妊娠した際、胎児に悪影響を及ぼす恐れ)があるといわれているため、妊婦には投与できないということもわかっています。また、学生さんから、よくタミフル(一般名オセルタミビル)とかは使えないのかなどの質問もありますが、タミフルはコロナウイルスにはない機序でインフルエンザウイルスの増殖を抑える薬なので使用しても効果はないですと答えています。
 

菊池:ワクチンに関しては、特効薬より早くできると思います。日本も含めて世界中の多くの製薬企業が開発に取り組んでいて早ければ来年とも言われています。ただ、現在の状況をみると、早さだけを競っているようにみえます。ワクチンは抗体を作ることが重要な役割をもつのですが、抗体の中には、きちんと体を守ってくれる抗体もあれば、くっつくだけで体を守らない抗体もあります。安全で本当に感染を抑えることまでできるかチェックが済んだワクチンができるまでは、もう少し時間がかかるのではないでしょうか。もう少し世界の感染状況が落ち着いて、新型コロナウイルス自体の特徴やこのウイルスに対する免疫応答がわかってから、本当に実効性の高いワクチンができるのではないかと思います。インフルエンザのワクチンのように実効性があるという段階になるまでには、まだまだ時間がかかると思います。因みに、MERSやSARSに対しても実用的なワクチンができていない状況です。そのくらい、難しいと思っています。


:あまりスピードを求めてしまうと、ワクチンの副反応(薬でいう副作用のようなもの)の検証が心配です。副反応のチェックができないまま出回ることになる可能性があります。
 

菊池:そうですね。きちんと副反応をチェックしておかないと子宮頸がんのワクチンのようになる可能性がありますね。毎年、子宮頸がんで3,000人が死亡していて、ワクチンを打てば90%を予防できると言われているにも関わらず、ワクチンを打っている人は1%未満の状況です。これは、接種後に神経障害が現れることがあるということが10年前に報告されたことによります。ワクチン自体には問題がなくても、国のワクチン政策や社会の考え方などによって接種率が低くなることがあります。きちんと薬のできた背景やワクチンの効果を知り、正しく接種することが大切ですね。
 

菊池:命に関わるような病気を治すための「治療薬」であれば、副作用があっても、命を守るために使用しますが、ワクチンは健康な人(病気になっていない人)が使用する薬です。健康な人は副作用や副反応があるかもしれないワクチンを受け入れにくいもの理解できますが、病気になるリスクやワクチンを打つことの効果などの正しい情報に基づいて判断することが必要です。今、国内で接種できるほとんどのワクチンは効果が高いことがわかっているものです。新型コロナウイルスに対しても良いワクチンが近い将来には出ると思います。WITHコロナの状況で、医療人にとってワクチンを打つ社会的な環境を作ることも大事ですね。
 

:リスクと効果を考え、ワクチンの接種を選ぶのは本人です。したがって、薬剤師の大きな役名として、患者さんや人々に正しい判断材料(情報)を適切に提供することも大事だと思います。しっかりした薬剤師を育てることは私たちの役目なので本学薬学部での教育にも力が入りますね。
 

司会:大変勉強になりました。きちんと副反応がチェックされたワクチンが早くできることと、ワクチンの重要性についてみんなが理解して、きちんと接種することが大切だと感じました。また、薬学部で、患者さんに対して、情報を適切に提示できる薬剤師を育成していることもよくわかりました。引き続き、学生への指導をよろしくお願いいたします。本日はありがとうございました。
 

(プロフィール)
菊池 雄士 教授/博士(医学)
【担当授業科目】免疫学、微生物学、自然科学実習入門、生物系実習、イグナイト教育3 他
【専攻研究分野】免疫学
金 容必 教授/薬学博士
【担当授業科目】微生物学、化学療法学1、化学療法学2、イグナイト教育1A・2A、自然科学実習入門、衛生系実習 他
【専攻研究分野】天然物有機化学、微生物薬品化学、分子生化学